著者: 岩本隆雄
両親・養父母に先立たれ、天蓋孤独の身の上になったところを業突くバアさんに拾われ、借金を背負って酷使されて暮らす青年・宮脇年輝は、そんな不幸な境遇にもかかわらず、実に健気で素直で真面目な好青年。運の悪さも一級品の彼は、振って湧いたような一流企業への就職機会に、奇妙な成り行きで妖怪に出会い、取り憑かれてしまう。
妖怪の悪戯で就職はパーになり、鬼婆には皮肉を言われ、さらなる借金を背負い、それでも年輝は嬉々として妖怪・天邪鬼との共同生活を始めるのだった……。
最初は幼児並みだったイーシャに辛抱強く言葉や文字を教え、人間らしく振る舞うことを教える年輝。友人の三島亨や、天邪鬼と共に出会った佐久間和美、天邪鬼の友人となった少女・純らに囲まれて、騒がしくも幸せな日々は過ぎていく。しかし和美が天邪鬼の現れた山で発見した未知の構造物の調査が、徐々に周囲に影を落としていく。天邪鬼はいったい何者なのか。
そしてある日、成長した天邪鬼は、年輝の不幸の一端が自分にあることに気付いてしまう。苦悩する天邪鬼が取った行動は……。
「星虫」と対をなすプレストーリーで、単体でも楽しめますが、「星虫」と併せて読めば面白さは倍増。地球の中でたった独り……そんな孤独感を抱いた登場人物達が寄り集まり肩を寄せあって、でも傷を舐めあうのではなく、清く正しく美しく生きていく様は、実にジュブナイル的です。
ソノラマ文庫版では登場人物の背景が一部変更になるなどして、より深みを増した話が楽しめます。「鵺姫真話」と併せて「星虫三部作」を形成する、日本ファンタジー界の名作です。是非ご一読を。