著者: 水月郁見
イラストレータ: 鈴木理華
レーベル: トクマ・ノベルズEdge
浪人中の二級学士エソワ・リュードがある朝市で偶然手に入れたノートには、奇妙な一人の少年の独白が綴られていた。彼は巡礼者の子供でありながら、不思議な成り行きから貴族の子供の身代わりとなり、戦いの場に駆り立てられていく。
堅固な身分社会の中で、リジュー・グレネル・ラファルの戦いはどこへ刃を向けるのか……。
水月郁見=夏見正隆といえばディストピアと航空小説の雄とも言える作者だが、初のファンタジー世界でディストピア節が炸裂。ディストピア好きには堪らない世界だろう。階級差は絶対で、貴族は良民や平民を平然と殺し、そして平民は巡礼者を乞食といって差別する。そういった身分社会の最下層に位置していたはずのリジューが、貴族の子供に成り果て、何やら大きな陰謀の渦に巻込まれていく様を、これまた著者お得意のトレンディドラマ風の演出で描いている。空を飛ぶシーンが少ないのは、致し方ないとはいえ、それでも盛り込んだ辺りが著者らしい。