著者: 麻生俊平
イラストレータ: 弘司
レーベル: 富士見ファンタジア文庫
これといって特徴もない猫背で気弱な高校生、矢神遼は、ある日学校の帰りに、よく立ち寄っている古道具屋「冬扇堂」の前で、黒衣の紳士から一本の短剣を托される。赤い鞘が波打ち、拔けないように見える剣。男が言うには、その剣を拔いた者に強大な力が与えられるのだと言う。
それが矢神遼とザンヤルマの剣の出会いだった。
拔けない筈の剣を拔いてしまった時から、遼は古代超文明・イェマドとその遺産を巡る暗鬪に巻込まれ、その強大な遺産の力によって道を踏み外していく人々と対峙する。遼、万里絵、水緒美、丈太郎そして心の闇に遺産を撒き散らす、黒衣の紳士・裏次郎と。
それは長く苦しく辛く、傷をいくつも、心に追う戦いだった……。
麻生俊平の代表作。超古代文明の遺産を巡る争奪戦なのですが、遺産は常に人の心を惑わし、狂わし、そして破滅へと導いていきます。遼は、いつも、殺意ではなく、救いたいと願って剣を取り、遺産に相対し、最も苦しい選択を迫られます。
傷つき苦しみもがいて、そして握んだ答えも正解じゃない。
それでも安易に相手を殺してしまうことに、最後まで抵抗し、自らも力に呑まれまいと必死に抗う、そんな“弱い”遼の“強さ”が光る名作です。
やや途中中弛みが苦しいところはありますが、是非最後まで完読して欲しい一作です。