著者: 米澤穂信
別にどこにでもいるような高校生・守屋路行は、友人の大刀洗万智と下校途中、ちょっと路を外れたために、雨宿りしている一人の少女と出会った。やや片言な日本語を操る、ユーゴスラヴィアから来たマーヤに。
1991年4月23日。
僅か二ヶ月というホームステイの間に、彼女は貪欲に日本のことを知りたがった。
「哲学的意味がありますか――?」
守屋、万智、そして奇妙な成り行きから彼女のステイ先になった白川いずる、守屋の部活仲間文原たちとの交流と、そして別れ。
1991年6月。ユーゴ内戦が始まっていた。
青春の甘さと酸っぱさに謎掛けが加わる米澤穂信の作品の中では、酸味がきつい作品です。
1991年の春から夏にかけての、国を越えた青春交流から、時々に挿入される1992年の情景。読者は自分の知識にある“あの”ユーゴ内戦の光景を思い出しながら、登場人物たちと同じようにマーヤの故郷がユーゴのどこなのかどうしても気に掛かります。
あの日の僕達に、その国は余りにも遠すぎて――。
そんなフレーズを思い付いてしまう、切ないお話です。